はい、今回は奈良県香芝市にある「狐井稲荷古墳(きついいなりこふん)」を紹介します。この狐井稲荷古墳ですが、日本で最大級の子持ち勾玉が見つかった古墳として知られています。
日本で最大級の子持ち勾玉が見つかった古墳と聞いたからには、見に行かずにはいられません。そんな訳で、今回は奈良県香芝市にある「狐井稲荷古墳」へ行ってきました。
狐井稲荷古墳とは
狐井稲荷古墳のある、奈良県香芝市に来ています。香芝市は古墳が多い上、王陵級の古墳もいくつか存在するというエリア。ただ、狐井稲荷古墳周辺には古墳が少なく、南側に狐井城山古墳があるのみとなっています。
狐井稲荷古墳と狐井城山古墳の間には「杵築神社(きづき)」が存在します。狐井稲荷古墳の南に面した神社で「狐井」という地名の由来となった「きつねの井戸」が存在します。
きつねの井戸
昔この村の鎮守の森に狐が住んでいました。ある日、水の音がするので村人が駆けつけるとそこには泥まみれになった狐の親子がいて、なんと井戸を掘り当てたのです。どんな日照り続きでもかれることのない清水を飲料水として利用し、人々は是を「きつねの井戸」と呼んでいました。そこでこの村を狐井(きつい)と名付けられたと言います。
神社案内板より
そんなキツネが掘り出したという「きつね井戸」がこちら。思った以上にしっかりとした井戸に仕上がっています。キツネがちょっと頑張って掘れそうな感じではありませんが。狐井一帯は水に恵まれない地域だったようで、水源の確保できたことは村名にするほどありがたかったのかもしれません。
狐井稲荷古墳の名前にある「稲荷」はこのキツネ伝説から来ていると思われます。ちなみに杵築神社の祭神は、スサノオでした。村名や古墳名にするぐらいなら、稲荷神を祀るべきじゃないのでしょうか・・・
そんな訳で、こちらが狐井稲荷古墳になります。
いい感じに残念なビジュアルですね
南は杵築神社、北と東は住宅地が建っているため、西側からしか見ることができません。唯一見れる西側は駐車場になっており、古墳と駐車場の間には工事現場でみかける、オレンジのフェンスで区切られています。コンクリ、オレンジフェンス、茂みが織り成す不協和音が、否応なくB級感を醸し出しています。
これまで狐井丘陵には、狐井城山古墳のみが存在すると思われていました。しかし1993年に土地の所有者が埴輪片を発見したことにより、古墳であることが判明。周辺の開発なとにより墳丘は削平されているようで、現在の規模は全長70mほど。5世紀末に築造された前方後円墳とのことですが、本来の規模は不明。築造時には濠も存在したようですが、現在は確認することはできません。
埋葬施設は不明ですが、近隣から複数の石棺が見つかっています。1基は、狐井城山古墳の北東隅の外堤に接して流れる初田川から見つかった、刳抜式長持形石棺の蓋石。
他にも狐井稲荷古墳の南にある阿弥陀橋脇に長持形石棺蓋石2基、石室天井石片が保存されています。
合計3基の石棺が見つかっていますが、どの石棺が狐井稲荷古墳のものかは分かっていません。ただ長持形石棺は「王者の石棺」とも呼ばれており、かなり高位の人物に用いられます。仮に長持形石棺が狐井稲荷古墳のものなら、被葬者は大王もしくは大豪族クラスなのかもしれません。
平安時代に編纂された「諸陵式」における武烈天皇陵は「傍丘磐坏丘北陵」と記されており、顕宗天皇の「傍丘磐坏丘南陵」と南北一対の扱いがされています。その位置関係を当てはめて北の狐井稲荷古墳を「武烈天皇陵」、南の狐井城山古墳を「顕宗天皇陵」とする説もあります。
ただ、築造時期は狐井稲荷古墳が狐井城山古墳よりも先に築造されており、皇位の順番から行くと狐井稲荷古墳を「顕宗天皇陵」とする説も存在します。いずれにせよ、狐井稲荷古墳は全長75mほどと大王墓としては小さすぎるため、被葬者については定まっていません。
ちなみに狐井稲荷古墳の南側に2個所に、石室の天井石を流用したと思われる石碑が残されています。平たい石材であることから、竪穴式石室に用いられていたものと思われます。ただし、どこの古墳から持ち出されたものかについては分かっていません。
出土品については、2011年に古墳の所有者が、古墳と隣接する自宅の庭仕事中に「子持ち勾玉」を発見し話題となりました。子持ち勾玉とは、勾玉の本体に勾玉状の小さな突起物がついたもの。子持ち勾玉は、5世紀中頃~後半に作られたもので、祭祀に利用されたと考えられています。
ちなみに全国で子持ち勾玉は約450個見つかっていますが、発見された子持ち勾玉は全国でも最大級とのこと。そんな貴重な勾玉が見つかったポテンシャル高めの狐井稲荷古墳ですが、残念ながらコンクリとオレンジフェンスと茂みしか見ることができません。あまりコンクリとオレンジフェンスと茂みを激写し続けていると、不審者感抜群なので、とりあえず帰ることにしました。
まとめ
今回は、奈良県香芝市にある「狐井稲荷古墳」を紹介しました。大王墓の可能性もある古墳ですが、フェンスと茂みしか見えないという残念な古墳に仕上がっています。国内最大級の子持ち勾玉が見つかった古墳ということなので、せめて案内板ぐらい置いてあればと思うところです。
そんな訳で狐井稲荷古墳の紹介はこの辺で。次回はまた別の、子持ち勾玉が見つかったフェンスと茂みが見える古墳を紹介します。
狐井稲荷古墳詳細
古墳名 | 狐井稲荷古墳 |
住所 | 奈良県香芝市狐井660−4 |
墳形 | 前方後円墳 |
全長 | 70m |
高さ | 不明 |
築造時期 | 5世紀後半 |
被葬者 | 不明 |
埋葬施設 | 不明 |
出土物 | 子持ち勾玉、円筒埴輪片 |
参考資料 | ・葛城の大王墓と太古の祈り ・大和の古墳を歩く |