はい、今回は奈良県桜井市にある「艸墓古墳(くさはかこふん)」を紹介します。顔文字以外でお目にかかることのない「艸」の漢字を持つ珍しい名前の古墳ですが、石室内に良好な状態で石棺が残る貴重な古墳でもあります。
そんな珍しい漢字と貴重な石室を持つ古墳と聞いたからには、見に行かずにはいられません。そんな訳で、奈良県桜井市にある「艸墓古墳」へ行ってきました。
艸墓古墳とは
艸墓古墳のある、奈良県桜井市に来ています。桜井市南部は、メスリ山古墳や谷首古墳など、古墳時代前期から終末期にかけて長期間にわたり古墳が築造されてきました。特に阿部丘陵には、終末期の巨大石室を有する古墳が多数存在します。

そんな訳で、阿部丘陵周辺の古墳を巡りながら艸墓古墳へ。艸墓古墳は、阿部丘陵の東端の住宅地に保存されています。Googleマップを頼りに歩いていくと、艸墓古墳の案内板を発見。しかし、それらしき道がありません。

少し進んでみると、今まで見たことの無いぐらい細い路地が奥に続いていました。どうやら周辺をギリギリまで開発したためこのような状態になっているようです。

当然民家との距離も近く、少し気を使います。そんな訳で、道か隙間が分からないような道を歩いていくと、艸墓古墳が存在しました。

艸墓古墳は7世紀中頃に築造された、1辺27×21mの方墳。完全な正方形ではなく、やや長方形。ただ現在は、風化により見た目は円墳にしかみえません。

埴輪の存在は確認されていませんが、終末期の古墳にしては珍しく、葺石が施されていたとのこと。発掘調査が行われていないため、周濠の有無は不明。埋葬施設は、南東に開口した両袖式の横穴式石室で、全長は13.16mを測ります。この時期における石室としては大きめの規模。
そんな訳で、石室内に入ることができるので、入ってみることに。こちらが艸墓古墳の羨道。全長8.72mと長めですが、高さは1.5mと低く、少し屈みながら進む必要があります。

こちらが玄室で、全長4.44m、高さ2mの規模。室内には巨大な竜山石製の刳抜式家形石棺が置かれているため、かなり狭く感じます。

石棺サイズに比して、石室が狭いことから、最初に石棺を配置した後に、石室を構築し墳丘を築いたと考えられています。ちなみに石棺の前には置き石が1つ置かれていますが、どのような意図を持って配置されているのかは分かっていません。
一見キレイな姿の石棺ですが、裏側にまわると盗掘穴があり、中身はすでに失われています。そのため、副葬品などは見つかっていません。

被葬者は不明ですが、立地的に「安倍一族」との説があります。安倍氏は古代の名族で、孝徳天皇の時代に安倍内麻呂が左大臣に就き、娘を天智天皇に嫁がすなど、大きな力を有していました。
阿倍丘陵は、安倍氏の勢力圏と考えられており、艸墓古墳のすぐ近くにある「文殊院西古墳」は、安倍内麻呂の墓との説があります。そのような点から、艸墓古墳も安倍一族の墓ではないかとも考えられています。

というでことで、最後に墳丘に上って見ることに。しかし、見た目以上に急角度な斜面で、上り始めてから激しく後悔。高さもそれなりにあるので、滑落したらかなりヤバそうです。

気をつけながらなんとか墳頂に到着。ちなみに墳頂には、謎のパイプが刺さっていました。昔はこれにノボリみたいなものを刺していたのでしょうか。

丘陵の東端ということで、眺めはなかなかの景色でしたが、命がけで上る必要は無いかもしれません。ちなみに帰りの方が滑りやすく、滑落して民家に激突しないことを祈りながら、とりあえず帰ることにしました。
まとめ

今回は、奈良県桜井市にある「艸墓古墳」を紹介しました。住宅密集地に横穴式石室が残され、しかも中に入ることができるというのがとても驚きでした。また内部の巨大な石棺は迫力があり、かなり見ごたえがあります。近くにある文殊院西古墳と併せて、阿部丘陵周辺の古墳巡りでは訪れておきたい古墳ではないでしょうか。
そんなわけで、艸墓古墳の紹介はこの辺で。次回はまた別の、住宅地にある巨大石棺が見れる古墳を紹介します。
艸墓古墳詳細
| 古墳名 | 艸墓古墳 |
| 別名 | カラト古墳 |
| 住所 | 奈良県桜井市谷657 |
| 墳形 | 方墳 |
| 一辺 | 27m×21m |
| 高さ | 8m |
| 築造時期 | 7世紀中頃 |
| 被葬者 | 不明 |
| 埋葬施設 | 横穴式石室(両袖式) |
| 石室全長 | 13.16m |
| 指定文化財 | 国の史跡:1974年6月18日 |
| 出土物 | 不明 |
| 参考資料 | ・案内板 |
案内板
艸墓古墳(国指定史跡)
墳丘は、阿部丘陵の小突起部を利用した、北西面・ 東南面がやや長い、長辺が約27m、短辺が約21 mの、截頭長方錐形の方墳である。埋葬施設は、南東に開口する両袖の横穴式石室に、竜山石製のくり ぬきの家形石棺を安置する。 石室の規模は、 全長13.16m、玄室幅2.71m、同長さ4.44m、 同高さ2.0m。羨道は長さ8.72m、玄門部で の幅1.9m、高さ1.5mを測る。 側壁・天井石 の間隙は漆喰を充填する。石棺の規模と石室の規模から、石棺を安置したのち、石室を構築し墳丘を築いたかと考えられる。
桜井市教育委員会
